2015年6月26日金曜日

ベトナムの若い力

一般的にARCHICADのシェアが大きい国というのは、労働力のコストが高く、知的所有権保護の制度が整っている国です。ベトナムはまだそうではないため、マーケットとしては好ましくなく、数年、状況がよくなるのを待つ、と結論付けるのが普通でしょう。しかしそれは大きな間違いです…。


まず、人口的にも非常に大きな市場(約9,000万人、ドイツよりも多いです!)であることに加えて、グローバルなアウトソーシング先としてインドより信頼性が高く、中国よりも安価だとして急速に存在感を増しています。特に日本企業がアウトソーシング先として注目していますが、シンガポール、オーストラリアやその他の国の企業もまた関心を寄せています。これらベトナムへのBIM業務のアウトソーシングを希望している企業がある国は、私たちのビジネスにとっても戦略的に重要です。ですので、彼らがベトナムでARCHICADに精通した若手建築家を充分に確保できるようにすることが必要です。

通常のビジネス手法としては、地域の販売代理店を通じて販売することでビジネスを展開しますが、これでは優れた労働力の育成にとても長い時間がかかります…。もちろんこれについても諦めたわけではありませんが、もっと速く人材収集を進める何かが必要です。去年の3月、ホーチミン市の真ん中で渋滞に巻き込まれていた時、一緒にタクシーに乗っていた鹿島建設のBIM責任者である矢島さんとこの問題についてブレインストーミングする時間が充分にありました。最初にアイデアを思い付いた人は誰だったかよく思い出せませんが、目的地に到着した時点では計画は完成していました。「鹿島建設とGRAPHISOFTをスポンサーとしたBIMコンペティションを一番優秀な建築大学で開催しよう!」

それから3カ月以内でこれを形にできるかは不確定でしたが、幸いなことに私たちの同僚である川井が熱心にプロジェクトへ参加し、学期末の5月までにすべてを取りまとめたのです。これは素晴らしいことでした、しかし、学期を終えて疲れ切った学生たちはそもそも参加してくれたのでしょうか?答えはイエスです。しかも少数ではなく、反響はすさまじいもので、130名の学生が申し込みました。川井は参加者へのトレーニングのためにベトナムへ行き、私と矢島さんも6月に審査のため再度ホーチミン市を訪問しました。私たちは学生の熱意と作品のクオリティが素晴らしかったことを非常にうれしく思いました。彼らは2週間足らずでARCHICADの基礎を習得するだけではなくマスターし、さらにチームワークとBIMxの使用についても身につけました。

優勝したチーム、次点だったチームは日本に招待されました、彼らにとって思い出に残る経験だったと思います。さらに、彼らの多くは鹿島建設からベトナムやシンガポール、日本での就職のオファーをもらい、今年の後半には勤務を開始する予定です。大学、学生、スポンサー、すべての関係者が今年もまたコンペティションを開催したいと思うのは当然でした…。

ベトナムですでに第二回目の「ARCHICAD BIMコンペティション」を開催したのはこのためです。昨年と比べてコンペティションはあらゆる意味でパワーアップしました。参加した大学は昨年の1校から2校に増え(ハノイ建築大学とホーチミン市建築大学)、参加者も200人を超え、スポンサーも鹿島建設に加えて、YKK AP Facade 、そしてパートナーの一つである沖縄デジタルビジョンが参加しました。

今年のテーマはホーチミン市の「旧中華街」の境界にあるカルチャーセンターでした。テーマとして選ばれたロケーションがデリケートな、暗示的な場所なのは明らかでした。(優勝したプロジェクトを含む)エントリー作品のほとんどは、モチーフに中国とベトナムの人々の平和、共存を選び、建築という方法を通じて表現していました。上記のことや、参加者のコメントから2つのコミュニティの共存は常に平和的というわけではなかったように思われました…。

第1ラウンドはBIM抜きのクラシカルなコンペティションで、トップ20のチーム(1チームは3名です)が第2ラウンドへと進みました。第2ラウンドへ進んだ学生はハノイとサイゴンで、川井からそれぞれ5日のトレーニングを受けました。

川井とホーチミン建築大学の学生たち
Photo : DANG Thanh Hung & Chau Thi Minh Trang
トレーニング完了後、BIMが必須となる第2ラウンドの開始です。作品をより洗練させるため、学生は2週間の期間を与えられ2Dと3Dが整合したBIMモデルを制作しました。またチームワークの使用も課題の一部で、プレゼンテーションはBIMxで行われました。ここでさらに選考が行われ、審査を通過した10チームが、6月19日にホーチミン建築大学で審査員へのプレゼンテーションを行うことになりました。

審査員の皆さん
Photo : DANG Thanh Hung & Chau Thi Minh Trang
審査員は、私を含むスポンサーの代表と、大学教授でした。作品の最終評価は、デザインとBIMモデル両方の観点で審査され、ポイントの半分はARCHICADモデルの質、半分はデザイン性での評価です。幸い、この2つの基準の品質は互いに比例しており、不必要な妥協をすることなく審査を終えることができました。最優秀の3つのチームがホーチミンから2チーム、ハノイから1チームだったことは審査員にとって明らかでした。それでも全体的な品質は非常に高く、昨年よりも良いものでした!最優秀のチームはシンガポールへの訪問を獲得し、2位、3位のチームはスポンサーへのインターンシップを獲得しました。しかし学生にとって最も興味深かったことは、鹿島建設やその関連会社へ就職した昨年の幸運な受賞者のように、来年の就職に向けてスポンサーへアピールできたことだったのではないでしょうか。

優勝チーム
Photo : DANG Thanh Hung & Chau Thi Minh Trang
今回すべての人がよい成果を得られたと思います。学生は訪問旅行の機会を得るとともに日本企業への就職を手にし、教員は学生の就職を得られ、また刺激的な技術を体験できました。スポンサーは聡明で熱心な若い働き手を得ることができ、そして私たちはベトナムでのARCHICADブランドの強化することができました。来年はさらに拡大して開催できると確信しています。私たちのパートナーであるGRAPHISOFT Korea(社長であるChoi 氏は今回ゲストとして招かれました)はすでに来年のコンペティションに韓国のゼネコンをスポンサーとして招へいすることを約束してくれました。私も来年のコンペティションにより多くの日本企業に参加していただけるよう願っています。
優勝チームのプロジェクト
Photo : Team H.G.T
矢島さんは今回の結果に非常に満足されており、唯一の心残りといえば、なぜ日本で同様のコンペティションを開催できないのかということだとおっしゃっていました。「日本の学生にはハングリー精神がない」「日本では人生が易しすぎる」と嘆いていました。実際、今回のベトナムの学生のようなエネルギーや熱意は、西洋(東洋もですが)地域では最近見ることができません。私が覚えているので最も近いものがあるとすれば、80年代のハンガリーにいた私たち、ベトナムの学生のように熱心で東欧の建築学科の学生だったころのことです。それとも私が年をとってノスタルジックになっているだけでしょうか…?

喜びの優勝チーム、教授陣、そしてスポンサー
Photo : DANG Thanh Hung & Chau Thi Minh Trang
コンペティションについて詳しい情報はこちらからご覧ください。
公式webサイト:https://bim2015.wordpress.com

2015年6月12日金曜日

お台場での2日間

Asia-Pacific Key Client Conference 6月2日-6月4日 東京


アジアにおいてGRAPHISOFTのKCC (Key Client Conference) を開催するのは初めてのことです。その開催地が東京でなければ、他にどこがあるというのでしょうか?私たちはもちろん東京を選択し、先週、KCCは東京湾を見渡すお台場のホテル日航東京で開催されました。
すべての人が「素晴らしいイベントだった」と語っていましたが、それはどういう意味で素晴らしかったのでしょうか?何が「素晴らしい」イベントを作ったのでしょうか?私はこう思います。

まず、何よりも、人々、参加者の皆さんです。それは参加者の数ではありません。予定していた通り、100名を超えるゲストにお越しいただき、およそ半数は日本からのゲストで、海外からのゲストはアジア太平洋地域からがほとんどでしたが、アメリカ、スウェーデン、UAEからも参加いただきました。そして多くのパートナー、出展社の皆様、そしてもちろんGRAPHISOFTの社員も参加しました。重要なことは、参加者の質の高さです。すべての方が日本、そしてそれぞれの地域の最先端の企業からの参加者で、BIM開発の最前線に立っている方々でした。


第二に、まぎれもなく非常に高いプレゼンテーションのレベルです。よくカンファレンスで見られる「ありもの」のプレゼンテーションを持ってくるスピーカーは一人もいませんでした。すべての方が最新のエキサイティングな(内容もビジュアルも)プレゼンテーションを披露する努力をしてくださいました。大変感謝しています。

第三に、雰囲気ではないでしょうか…。GRAPHISOFTのカンファレンスは、正直で、生真面目な戦略の話題等を提供しながらも、リラックスした、フレンドリーな雰囲気でよく知られています。これはブダペストにおいてのカンファレンスでも大切にしている精神であり、今回の日本においてもうまく「輸入」することができたと思います。しかし、最も重要なことは、お客様と話をして、耳を傾ける時間が充分にあったことです。これが一番重要なことだと思います。私たちの製品についてお話ししたいのはもちろんですが、「お客様の話を聞く」ということをしなければ意味がありません。


それでは、カンファレンスについて短くまとめてみたいと思います。

カンファレンス初日、私の日本とアジアにおける短いレポートの後に、私たちのCEO、Viktor Várkonyiの基調講演がありました。GRAPHISOFTにおける革新の精神の重要性を強調し、最新の発明について説明しました。「予測的バックグラウンド処理」と呼ばれるもので、CPUのアイドル時間を3Dパフォーマンスの向上に利用する技術です。


次に、出展社の皆様に短い5分から10分のプレゼンテーションを行っていただきました。9社に出展いただき、日本からだけではなく、ノルウェーのような遠く離れた国からも参加いただきました。


昼食後は、マーケティング担当副社長のAkos Pfemeterと彼のチームより、次期バージョンのARCHICAD 19 とBIMcloudの最新の改善点が発表されました。この秋には楽しみなことがたくさんあります!


初日最後のプレゼンテーションは、私たちのお客様に行っていただきました。この日は建設会社の方々に登壇いただき、日本から2社、そして韓国より1社に発表していただきました。まず、鹿島建設の矢島様にお話しいただきました。多くのゼネコンが最初に設計、その後施工という流れをとる中で、鹿島建設は投資から最大のリターンを得られるであろう、施工の現場へと直接BIMを導入するアプローチを発表していただきました。今日では、国際的なコラボレーションネットワークによって、約340箇所の建設現場でBIMがなんらかの形で使用されています。これは確かにユニークな成果です!


次に、大林組の宮川様からは、GRAPHISOFTにとって最も重要なインスピレーションであり、パートナーとしてご協力いただきましたBIMcloudの誕生と、並行して進められたBIM導入についてお話しいただきました。特に興味深かったのは、社内の教育システムとBIMxの導入です(ご存知かもしれませんが、大林組では5,000以上のiPadにBIMx Proが実装されています)。またこれだけ多くの(2,000人)の建設現場に携わる人がBIMを使うことが非常に有効的であると学びました。


韓国のPOSCO E&Cからは、Mr. Dae-Youn Keumにお話しいただきました。パフォーマンスの問題がいかにBIMの導入をこれまで妨げてきたか、そして同社がARCHICADを導入してからどうやって進化してきたかを説明いただきました。さらにいくつかのBIMを使用したユニークな建築物を紹介いただきました。


プレゼンテーション終了後は、3名の方にパネルディスカッションにもご参加いただきました。


カンファレンス2日目は、2人の会長の基調講演で始まりました。GRAPHISOFTのBojar Gabor と、buildingSMARTのMr. Patrick MacLeamyです。まるで事前に話し合ったかのように(実際には打ち合わせしていません)2人のプレゼンテーションは完全に調和したものでした。
GRAPHISOFTの創立者、会長に3つの情報革命について語って頂きました。まずは、スピーチについてです。約40,000年前、これによって人類は情報を伝達することを可能にしました。2つ目は、文字です。これで情報を保存することができるようになりました。そしてIT革命です。これにより情報の加工、検索が容易に、そして効率的に扱うことができるようになり、BIMはここで不可欠かつ、重要な役割を果たしているのです。


Mr. MacLeamyはこの部分をピックアップし、いかに彼が設計を実践するうえで(彼は米国の大規模設計事務所HOKのCEOでもあります)、建設産業における断片化の性質を変更する必要性を実感したか、そして彼が発案者であるbuildingSMARTという組織がどのように誕生したかを語ってくれました。最後に、「BIMのI」の重要性、つまりBIMモデルは基本的に情報のデータベースであり、3Dはそれを配置するための方法に過ぎないということを私たちに注意喚起しプレゼンテーションを結びました。


次に、ミニ政府会議のような時間です。シンガポールのBCA、香港のCICより政府職員をお招きし、各国の戦略についてお話しいただきました。特にシンガポールでは、政府はBIMについて先導するだけではなく、資金も用意し、推進していることが印象的でした。多くのファンドが企業の2DからBIMへの移行をサポートする体制があります。シンガポール政府はBIMが国家の将来的な競争力の礎になると強く信じているためです。もし時間があれば、日本の多くの関係者にもお聞きいただきたい内容でした。


最後の4つのプレゼンテーションは、設計事務所の方々に登壇いただきました。まず、中国の成都よりJZFZに登場いただき、印象的なイメージとその背後にあるプロセスについて紹介いただきました。他社と同じく、同社もまた、ARCHICADとRhinoを同時に使用しています。最近発表された新しいRhinoceros® - ARCHICAD コネクションは、彼らにとって非常に歓迎すべきニュースだったでしょう。


昼食のあとは、日建設計の山梨様にステージに登場いただきました。同社のさまざまなBIMモデルの利用方法を説明いただき、また、まもなくリリースされるGRAPHISOFTと日建設計の協力の成果について熱心にお話しされていました。山梨様にとって、「マス・プロダクションからマス・カスタマイゼーションへ」、「ジオメトリからアルゴリズムへ、フリーフォームからジェネレーティブフォームへ」の移行は重要なことであると語られていました。私たちはもちろんサポートしていきます!


そして、長年の友人であるフィリピンのJojo Talentinoにステージに上がってもらいました。AIDEA社がイノベーションを続けていること、勇敢にBIMの道を突き進んでいることは素晴らしいことでした。同社の最新のステップは、自社独自のGDLとアドオンの開発です。これによって、さらに積極的に同社の未来を形作ることができるのです。私たちは話をするたびに、彼らが非常に成功していると感じます。同社はどんどん大きく成長し、今200名以上の従業員が働いています。


最後に、現代の建築シーンで最もホットな役者がステージに上がりました。デンマークのBIG (Bjarke Ingels Group)は、同社の最新のデザイン、そしてARCHICADプラットフォームへ徐々に移行していく時の痛みと喜びを紹介してくれました。BIGのBIMマネージャーであるJakobは、設計者をなだめ、BIMへ移行させることは容易ではないが、一度BIMを使用すると、彼らは振り返ることはないと話しました。コペンハーゲンの、ドーナツ型の煙を吐き出す人工的なスキー場が完成した暁には、私は必ず訪問します!


プレゼンテーション終了後には、前日同様に聴衆から多数の質問がされた刺激的なパネルディスカッションが行われました。議論は、アルゴリズム設計の限界から、BIMモデルの所有権、設計者ではないコンサルタントとの協力までさまざまな話題に及びました。このような議論の司会をすることは容易ではありませんが、今回私は非常に楽しむことができました!


カンファレンス最後の夜は、いつものようにパーティです。今回は東京湾のクルーズを選択しました。天候は最高に私たちに協力的で、魅力的な東京の夜景とともに、見事な赤い月を楽しみました。パーティの終わりには、ご要望にお応えして、海外のゲストに「三本締め」を紹介しました。


このカンファレンスを称賛いただけたことはもちろんですが、私が最も誇りに思うことは、日本のお客様が成し遂げた成果を世界に向けて発表することができたことです。そして恥じることは何一つありませんでした!このイベントは、日本において、広い意味ではアジアにおいてもBIMが成熟していることを示しました。ご参加いただいたすべての皆様に再度感謝するとともに、来年ブダペストでお会いするのを楽しみにしています!