2013年8月20日火曜日

ダレン・ティムズ - オーストラリアのBIMのチャンピオン

既に今年のArchiCAD製品発表会のプログラムをご覧になったかもしれませんが、今年も海外からゲストスピーカーをお招きすることになっています。今回は、オーストラリア最大級の組織設計事務所、Rice Daubney社のプリンシパル、ダレン・ティムズ氏をお招きしました。2000年代初め、私がプロダクトマネージメントのVPとしてGRAPHISOFT本社で勤務していた頃、当時は大規模組織のユーザーはまだ少なく、同社の名前を頻繁に耳にしていましたが、残念ながらお会いする機会はありませんでした。しかし、ついに昨年ブダペストで開催されたKey Client Conferenceで彼のプレゼンテーションを見ることができました。そして、そのプレゼンテーションを見た瞬間に、彼を東京に招待してユーザーの皆さんにご覧頂かなくては、と思いました。

Rice Daubney, Principal
ダレン・ティムズ氏
実は、Rice Daubney社は本格的なBIMを始めるのにかなり時間がかかった企業です。90年代にArchiCADを購入されましたが、数年間は2Dとしてのみ使用され、従来の方法で図面を生成するためだけに使っていました。ジュニアスタッフのメンバーがArchiCADの3D機能について、ダレン氏に繰り返し尋ねてきたとき、彼は3Dパッケージを2D製図用にだけ使うなんてもったいない、という考えが浮かんできました。一部の下請け業者と3Dデータを交換する可能性を議論し始めると、彼らの反応は非常に前向きなものでした。その時、BIMこそがこれからのやり方だと確信されたそうです。

それから「BIMの旅」の道のりが始まり、Rice Daubney社はプロジェクトでBIMを活用し、調整や効率の改善を続けました。そして、ほんの数年で彼らのBIMの実施は誰にも負けない程、高いレベルへと発展しました。ARKプロジェクトでは、オーストラリアで高層ビルとしては初となる、BIMでの設計を担当し、維持管理ソフトウェアと共に構築されたモデルを引き渡しました。また、特に医療施設の分野では正確なプロジェクトの調整が重要となりますが、これもRice Daubney社の得意とする分野です。オーストラリア、クイーンズランドの巨大な大学病院、サンシャイン・コースト大学病院のプロジェクトでは、完全にBIMで生成されたドキュメントを作成されており、私自身も過去に見たことがないほどのスケールです(このプロジェクトは東京会場での彼のプレゼンテーションでご覧頂けるでしょう)。BIMモデルは、プロジェクト関係者間における継続的な3Dベースでの意思の疎通が可能になります。これによって、合意形成に達するまでの時間を劇的に削減することができます。これも医療施設のプロジェクトにおいては非常に重要な項目です。
The ARK project
ダレン氏は今回が初来日となりますが、兼ねてより一設計者として日本に訪れたいと思っていたそうです。訪問中の忙しいスケジュールの合間に、東京のエキサイティングで新しい建築をチェックするのを楽しみにされています。ただし、ArchiCADのユーザーの多くの方が国際的なBIMの実施への関心を寄せる今、観光の時間はあまりないかもしれませんが... 

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9月3日にJPタワーで開催されるArchiCAD製品発表会でダレン・ティムズ氏の講演を是非、ご覧ください。定員により、締切が近づいておりますので、お申込みは是非お早めにお願いします!

2013年8月7日水曜日

BIMハイウェイの穴ぼこ

私は常に、BIMソフトでの「ワークアラウンド」が悪だと信じてきました。これは、本来時速100kmで走り抜ける高速道路を、穴ぼこがあるために時速20kmで通り抜けなければならないようなものです。その結果、A地点からB地点まで高速道路で行けるにも関わらず、一部の人々は旧国道で行くこと(2Dのことを指します)を選ぶことになるのです。そのほうが、イライラせず、予測可能であるからです。

BIMにおいて、 「穴ぼこ」のほとんどは2D図面の生成に関連しています。これは主に、2D図面の基準がBIMデータを考慮して作成されていなかった為、ロジックが根本的に異なり、そのためにアルゴリズムを絞るのは非常に複雑で困難です。しかし、製図基準はそのものとして存在し、当然、これに合わせなければなりません。しかし問題なのは、完成度を求めれば、そのために様々な「ワークアラウンド」を余儀なくさせられるのです。ワークアラウンドは以下の3つの理由で悪だと考えています。

まず一つ目に、学ぶのが難しいということです。明白というには程遠いやり方をいくつも覚えなくてはならないのです。そのような方法以前に、そもそもBIM自体がそれほど単純ではありません。そんなものが果たして必要なのでしょうか? 残念ながら必要なのです。なぜなら、そうしないと仕事が完成しないからです。

2つ目にソフトウェアを標準化するのが難しいことです。たいていの場合、ワークアラウンドは完璧ではありません。様々なデメリットも存在します。従って、どれが最適の方法であるかという確証がありません。結果として企業は(あるいは企業内のある人達は)、様々なソリューションを選び、ワークフローを標準化するのが難しくなり、通常のカリキュラムでトレーニングすることも難しくなります。

3つ目が最も重要です。ワークアラウンドはBIMモデルを台無しにしてしまいます。BIMモデルの自然なモデリングから様々な方向にそれると、数量が正しく計算されている唯一のBIMモデルが汚染され、確かなものではなくなっていくのです。正しい2D表現のために加筆するところから始まり、100%数量が信用できなければ、数量のために使うのを諦めるか、2つのBIMモデルを作成してどちらも維持するかのどちらかです。どちらの選択肢も良いものとは言えないでしょう。BIMモデルの費用対効果で考えても合理的とは言えず、多くの人がその為の価値を疑問に思うでしょう。

いくつかのワークアラウンドは、確固として確立されており、その誘惑(あるいはかなりのプレッシャーもあるでしょう)に耐えなければなりません。例えば、詳細が3Dで上手く表現できない為、簡単に編集できる2Dで解決してしまうことなどです。しかし、2Dで簡単に解決したように感じてしまうのですが、かつてのジレンマに再び陥ることになります。数量はどうなるのか?ということです。これが、私たちが簡単な解決である2Dのワークアラウンドを拒み、ArchiCADのワークフローを改善することにした理由です。BIMの根本的な価値である3Dに立ち戻ったのです。3Dで問題を解決できれば、どこで断面図を切っても問題なく、建物全体で解決できるということです。そして、数量計算のために別々のモデルを管理する必要はありません。BIMにおいて目新しいものではありませんが、私たちの開発者がArchiCAD 17で実現した細部のレベルを適用された人はいないでしょう。

結果として、ArchiCAD 17は1:50レベルには十分な2D図面、さらにはそれ以上をも生成できると確信しています(早期テストユーザーの方も含め、確認して頂いています)。ワークアラウンドを排除することによって、新しいBIMワークフローは、よりシンプルになり、より高速に、より効率的になります。話がうま過ぎると思いますか?是非、あなた自身の目でご覧になってはいかがしょうか。9月3日(火)東京と、9月6日(金)大阪にて、ArchiCAD 17の製品発表会にてお見せしたいと思います。 高速道路は舗装されています。旅を始めましょう!


Tokyo 
http://www.graphisoft.co.jp/community/event/ArchiCAD17_conference_tokyo.html

Osaka
http://www.graphisoft.co.jp/community/event/ArchiCAD17_conference_osaka.html

2013年8月2日金曜日

BIMは細部に宿る

グラフィソフトジャパンにとって、夏はいつも忙しい季節です。通常、秋口に来るArchiCADの新バージョンリリースの準備のためです。次のリリースであるArchiCAD 17では、日本にとって非常に重要であるため、今回は特に忙しい夏を過ごしています。新しいバージョンがどのようなものであるか、楽しみにされていると思いますが、その前に少し、過去数年のテーマを振り返りたいと思います。

グラフィソフト、ArchiCADは毎年、単にいくつもの新機能を追加してリリースするだけではなく、戦略的に特定のテーマを掲げ、包括的なコンセプトとしていることはご存じかと思います。この方法によって、開発のプログラミングもより効率的になります。また、インターフェースやワークフローを絶えず変化させてしまうことは、ユーザーの皆さんに非常にストレスを与えてしまうことにもなり得ます。それでは、ここ数年の開発テーマの概要をご紹介します。

ArchiCAD 13から始めましょう。というのも、この年(2009年)が、私が日本に戻ってきた年であり、ArchiCADの製品開発に再度関わり始めた年なのです。ArchiCAD 13は「チームワーク」のバージョンとしても知られています。最も重要な機能は生まれ変わったチームワークの機能であり、まさに革新的と言うにふさわしいものでした。このバージョンがまさに、「チームワーク」の機能が必須となる大規模組織に向けた、可能性の扉を開いたものでした(当時、日本ではArchiCADは比較的小規模の設計事務所で主に使われていました)。

2010年では、ArchiCAD 14で再び「コラボレーション」にフォーカスしました。しかし、ここではより広い意味で様々な分野との連携を目指しました。結果的に、IFCのインプット、アウトプットはより強力になり、「OPEN BIM」のムーブメントが生まれ、このコンセプトは広くにわたって受け入れられるようになりました。



ArchiCAD 15と16のテーマは、どちらも3Dモデリングにフォーカスしたものとして、少し似ています。モルフツールの導入により、建築家の設計における自由な発想がBIMによって阻害されるという懸念を一掃しました。



振り返っても、非常に素晴らしいリストで、ブダペストの開発者たちも優れた仕事をしたと思います。しかし、一つ重要なエリアが欠けているのです。それは2D図面の生成についてです。これについては、大きな改善はArchiCAD 12以降ありませんでした。グラフィソフトは2D図面の生成を包括的にターゲットとしています。これが今のところ、BIMデータの最も重要なアウトプットです。また、モデルから自動的に切り出したドキュメントが基本設計レベルでは通用するとしても、実施設計や、特に施工図には十分だと言えないということが、多くの人がBIMはまだ発展途上だと言う理由です。

ある人たちからは、これを実現するのはあまりに困難であり、このレベルに挑戦するのではなく、2Dソフトの領域として残しておく方が賢明だと助言されたりもしました。しかし、ドナウ川の頑固な同僚たちは、そう簡単にあきらめる連中ではありません。ArchiCAD 17では非常に画期的な技術を実現しました。新しい優先度ベースの接続により、平面図と断面図のどちらでも、自動的に完璧な納まりを実現します。

ドイツの有名なモダン建築家ミース・ファン・デル・ローエは、かつて「God lives in the details -神は細部に宿る-」と言いました。建物はあらゆる細部まで正確で美しくなければならないという意味です。これはBIMデータにも同じことが言えます。細部の納まりまで正しく入力されなければ、全体のデータとして完全なものにはならないということです。この考えから、新しいArchiCAD 17ではこの言葉に敬意を表し、スローガンとして「BIM lives in the details - BIMは細部に宿る-」としました。

ArchiCAD 17ではドキュメントワークフローにおいて、徹底的な改善がなされました。新しいワークフローによって、この先10年は、今年の2013年が、ついにBIMデータからの実施設計図・施工図の生成が現実となった年として記憶されることとなるのではないかと思います。来週は、どのようにこのバージョンが実現されたかについて書きたいと思います。