2012年8月28日火曜日

過去最高のArchiCAD

毎年この時期、ArchiCADの新バージョンがリリースされます。毎年これが最高のアップグレードである理由を皆様にご説明するのが、私たちの仕事です。 しかし今回、ArchiCAD 16について強く感じているのは、チームワーク2.0が導入されたArchiCAD 13のときに匹敵する、非常に重要なステップとなるということです。

ArchiCADは、設計の中間地点である基本設計と実施設計において最も多く使用されています。コンセプトデザイン用にArchiCADを使用することも可能ではありますが、SketchUp®*のような3Dモデラーを使用し、シンプルなマスモデルを組み立て、別々に2Dモデルを作成するというケースが多く見られます。実際、SketchUpは非常に使いやすく、手ごろな価格(基本バージョンは無料)ですが、この場合、図面は2Dで作成しなくてはならず、結局のところ、2Dベースの設計時に起こりうる、いつもの問題がついてまわります。各種図面の不整合があり、3Dモデルは別々にアップデートしなくてはなりません。そして、初歩的なマスモデルでは、初期段階で非常に限られた解析しか行うことができません。しかし、さらに大きな問題は、コンセプト段階で3Dモデルを作りすぎる傾向にあり、それによって、手放すことができず、BIMで再構築できなくなるということです。結果的に設計者は「3Dモデルをここまで作ったのだから、あとは2Dで図面を完成してはどうか?」となり、また古いやり方にはまってしまうのです...

このような問題がありつつも、また、ArchiCADを使い込んで頂いているお客様でさえ、コンセプト段階において前述の方法を適用されていることが頻繁にあります。なぜでしょうか?理由はシンプルです。誰もスラブを使ってマスモデルを作成したくないのです。ArchiCAD、特にシェルツールが導入されたバージョン15からは、柱、梁、壁、スラブを使ったBIMモデリングをスムーズに行うことができました。しかし、認めざるを得ないのは、これまでのArchiCADでシンプルなマスモデル(過去のポストで「クレイモデル」と呼んでいました)を作成するのに最適なツールはありませんでした。ただし、それは過去の話となり、これからは違います。ArchiCAD 16では新しいモルフツールの導入により、私が今まで思い描いていた「簡単で楽しいモデリング」が実現できるでしょう(当時、内部の情報を持っていたことも認めます)。このモルフツールは生活産業研究所様から新しくリリースされるマスプランを利用すると、さらに便利になります。このアドオンを使うことにより、モルフ要素をゾーンに変換し、詳細な面積計算を作成することができます。そして、最終的にモデルを壁やスラブのような、他のインテリジェントなBIM要素に変換することができます。これを利用すれば、企画段階からBIMを使うことに障害はなくなるでしょう。


二つ目に、私が個人的にArchiCADの競合から欠けている部分について聞かれれば、「オブジェクトの作成」だと言っていました。もちろん、GDLがあります。ハイエンドでパラメトリックなオブジェクトを作る最高の方法です。しかし、誰もがスクリプトを書けるわけではありません。控えめに言っても、95%のユーザーはスクリプトを避けるでしょう。そしてこのことは、カスタムオブジェクトを簡単に作成する方法と言い難いものでした。ここでもモルフツールはソリューションをもたらします。 実質的にゼロからモデルを作成できるだけではなく、既存のオブジェクトをモルフ化し、編集することができるのです。ArchiCADの数多くのGDLオブジェクトから、例えば窓をモルフ化し、窓枠を編集/調整することができるということです。さらにDXFや3DSなど、他のフォーマットでも自由に配布されているオブジェクトをダウンロードし、編集することが可能になります。さらに、私たちはBIMcomponents.comと呼ばれる新しいコミュニティWebサイトを立ち上げます。何千ものパラメトリックなGDLオブジェクトを自由に利用することが可能となり、また、登録したユーザーは自分のオブジェクトをアップロードし、コレクションをWeb2.0の形で発展していくことが可能です。ArchiCADのユーザーは、ArchiCAD上でこのサイトからオブジェクトを検索し、見つかったBIMデータを直接ドラッグ&ドロップすることができます。GRAPHISOFTが一旦何かに取り組むと、それを適切に実行することについて、しばしば賞賛されてきました。私はこのBIMオブジェクトを取り巻く新しいインフラは、この精神における良い例だと思います。

そしてさらに、ArchiCAD 16は環境分析ツールを内蔵した初のBIMシステムになります。確かに、優れたエネルギー解析プログラムは数多く存在しますが、基本的に全てIFCや他のフォーマットを使用してデータ交換を行う必要があります。これは難しいことではありませんが、実際、最も簡単なデータ交換とは、すべてを保存していない状態で、ArchiCAD内で解析アプリケーションが実行されることです。いつでも必要性を感じた時、ボタン一つであなたのデザインの環境性能を分かりやすくレビューできます。

これが革命的なリリースでなければ、何だと言うのでしょうか?

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PS: 来年のArchiCAD 17の時に何を言えば良いかだけが心配です。また、来年考えます。。。 

*SketchUp®はTrimble®社の商標登録です。

2012年8月20日月曜日

利益には痛みを伴う

今年の夏はとても忙しいです。弊社では、毎年9月がアップデートサイクルのクライマックスであり、新バージョンのリリースや新製品発表会などのイベントなどの準備が重なり、7,8月から非常に忙しい時期が続きます。しかし、今年はそれに加え、大幅に人手が取られる大きなプロジェクトが動いています。このプロジェクトを「ERPの導入」と呼んでいます。
ご存知ない方の為に:ERPは、 "エンタープライズ・リソース・プランニング"の略で、受発注、出荷、財務管理などの全ての基本的なビジネスプロセスを一つのシステムに統合します。新しいシステムを使用することにより、一回の簡単な操作で本社からソフトウェアの発注が可能になり、発注書や請求書の作成、売り上げ報告、ユーザーDBのアップデートなど、データが常に最新の状態となります。

聞き覚えがないでしょうか?私たちにはあります。複数の関連するデータベースを古い方法で、相互に連結されていない数十ものExcelファイルなどで管理するということです。頻繁に、同じデータを2回以上入力する必要があり、別々の計算から数字を持ってこなくてはならなかったり、変更があるとプロセス全体をやり直さなくてはなりませんでした。ここで、業務処理データを建築/建設データに、Excelシートを2D図面に置き換えてみると、驚くほど共通点があります。設計者は面倒な入力処理があり、結果の不整合や変更に柔軟に対応していかなくてはなりません。これに対し、ERPシステムは、「業務管理のBIM」のようなものです。一元化されたデータベースがあり、全ての入力は一度だけで、接続されている全てのデータが自動的に更新します。まさにBIMの原則と同じです。

シンプルでロジカルに思えますが、そう簡単ではありません。まずはシステムを購入する必要があり、これは当然安くはありません。実際に、BIMシステムよりも高価です。しかし、ソフトウェアのコストはトータルコストのほんの一部であり、セットアップとトレーニングを提供するシステムインテグレータ会社に多くのコストを支払わなくてはなりません。もちろん、これは本社のGRAPHISOFT(実際には:Nemetschek社グループ全体)が関わっており、要件の調整や、データ交換のテスト、使用する上でのアドバイスなど、私たちへのサポートにかなりの時間を費やしています。しかし、社内で発生する最大のコストは、今後のシステムを使う人が新しいプロセスを習得するために費やす時間です。Excelは誰でも使えますが、新しいシステムの場合、当然ゼロから学習する必要があります。それだけではありません。現状のあらゆるプロセスを見直し、新しいERPシステムに適用させるかどうか一つずつ検証しなければなりません。以前と同じようなプロセスで行うことができるものもありますが、多くの場合、プロセスを大幅に変更する必要があり、場合によっては制限が厳しくなり、柔軟性が低くなることもあります。

このような背景がありつつも、「開始日」は迫っており(10月1日に予定)、この時点で全てが以前より良くなるわけではありません。新しいシステムは柔軟性が低くなり、以前のように臨機応変に発注を行うことはできなくなります。私はこの発注プロセスが以前より大幅に速くなるとも思えません。新製品や販売方法は、さらにお金のかかるカスタマイズのプロセスを必要とし、トレーニングは一時的なものではありません。新しい社員はトレーニングが必要となり、システムが更新されたら既存のユーザーもそれに合わせてトレーニングが必要になるかもしれません。

では、なぜこれを行う必要があるのでしょうか?このような様々な側面があるにも関わらず、多額のコストを支払い、 現在のシステムを新しいシステムに変える必要があるのでしょうか?それは、これらのマイナス面を考慮しても、ERPシステムの利点が非常に大きいということです。

最もわかりやすい利点はデータの整合性と数字の一貫性が確保されるという点です。まさにBIMと同じように、一般的なデータベースを使うだけでは別々のレポートに異なるデータを持つことは不可能です。これだけでも、作業量を大幅に減らすことが可能になり、導入コストの高さを正当化することができます。しかし、さらに重要なのは、いつでもあらゆるデータにアクセスすることが可能になり、実質的に会社のあらゆる側面においてレポートを即座に作成することができる、ということです。これにより経営陣は、古い「2D」システムの時より賢く、恐らくより良い意思決定を行うことができるでしょう。ビジネスプロセスをERPへ移行するための時間そのものも、全て無駄というわけではありません。以前のプロセスを見直すことで、多くの矛盾や無駄を発見することができました。全体的に、新しいソフトウェアが完全に使用されることになれば、この努力は確実に戻ってくると確信しています。そのためには、まず真剣に取り組まなくてはならず、これは痛みを伴います。社員がこのプロジェクトに多大な労力が必要であるということを実感した際、とても嬉しそうには見えませんでした。私が信じて話したことは、私たちがお客様に弊社のBIMソリューションの導入を提案するのであれば、せめて、それと似た社内プロセスを変える方法を導入し、「業務管理のBIM」を実感しなければなりません。お客様にとって必要となる労力に似たものを体験することは、私たちにとって貴重な経験です。

恐らく、私の言いたいことがおわかりでしょう。これらの労力はArchiCAD(または他のBIMシステム)を導入するときに必要になるものと、さほど変わりません。必ずしも苦痛となるわけではありません。(実際、BIMはすべてのプロセスに同時に適用する必要はありません)しかし、本質的には同じです。現状のプロセスを見直し、新しいシステムを学ぶ一方、ある程度の柔軟性を諦めることとなります。これは多大な労力を必要とし、それによって効率が初日から良くなるということはありません。実際、一般的にBIMを導入後、それ以前の効率性のレベルに戻るためには2~4ヶ月必要だと言われています。しかし、痛みと引き換えに多くの利益も得ることができます。ミスを排除し、アイデアをコミュニケーションする方法は大きく改善され、より素晴らしいデザインのコントロールが実現できます。より良いデザインはすぐにも実現できます。痛みを伴う価値があると思いませんか?

2012年8月7日火曜日

弘法にも筆の誤り

BIMの利用が拡大している今、BIMモデルの品質が非常に重要になってきています。モデルの品質保証は不可欠であり、些細な矛盾が後に深刻な問題につながる可能性があります。非常に慎重なプロセスであってもミス、問題、不整合は自然と発生します。重要なことは、後に深刻な問題になる前に早期に発見し、修正することです。

たとえば、柱をコピーして、間違って2回貼りつけてしまったとします。画面上では気づきませんが、コンクリートの量は当然二倍になります。同様のことが同時に複数の要素で発生した場合、深刻な不整合が発生する可能性があります。このような単純ミスに加え、設計ミスも多く存在し得ます。複雑な病院の設計で車椅子などのクリアランスを十分確保できているでしょうか。避難経路や防火壁が必要十分に含まれているように設計できたでしょうか。後に発覚し、コスト高な再発注をせざるを得なくなることや、最悪の場合、現場調整もあり得ます。 全体像で見れば、BIMを導入する主な目的の一つは、意匠、構造、設備との調整であるということもあります。これらの要素は異なるチームによって、また、異なるツールを用いて入力されており、第一段階で不整合や、干渉が発生するのは極めて自然なことです。これらを解決するために、設計者は統合されたBIMモデルを作成し、干渉を検出し、一つずつ解決しなくてはなりません。場合によっては、これを設計プロセスで複数回行わなくてはなりません。

2D図面の品質確認については、目視により確認する、ということが比較的容易に行われてきましたが、BIMモデルにおいて行うことははるかに困難な作業です。検索機能を使用することによって、このようなマニュアルの品質保証の有効性を改善することはできますが、これだけではまだ非効率的であり、ミスも発生しかねません。さらに、大規模な建物の場合、膨大な量の検証を、少なくとも部分的に自動化しなければ、ワークフローの重大なボトルネックを引き起こす可能性があります。欧米でBIMの干渉チェック、レポートツールの需要が高まっているのも不思議ではありません。最も広く使用されているツールはSolibri Model Checker™です。フィンランドのSolibri社による素晴らしい製品で、主要なBIMアプリケーションのIFCを読み込み、表示し、干渉チェック、整合性のチェック、空間分析、アクセシビリティ分析などを実行し、分かりやすいレポートを作成し、品質保証を可能にするツールです。特に興味深い機能は、これらのチェックをカスタマイズすることが可能であるため、社内標準に従ってモデルが作成されているかをチェックすることができます。


また、SolibriはIFCを使わず、ArchiCADのファイルを直接読み込むことができるということも、ArchiCADユーザーの間でSolibriが広く利用されている理由の一つです。 実際、海外の多くのパワーユーザー(AIDEA社やMota-Engil社等)がSolibriを社内プロセスに採用しています。現在までのところ、日本のお客様にとっては、日本語バージョンが存在しなかったことや、英語バージョンにおいても日本の代理店が存在しなかったことにより、現実的な選択肢ではありませんでした。しかし今回、Solibri社は日本語バージョンを作成します。さらに、先週私はSolibri社のCEOであるHeikki Kulusjarvi氏と販売契約を締結して参りました。これにより、グラフィソフトジャパンはSolibri Model Checker™を販売およびサポート致します。ArchiCADと同様に、真摯に情熱を持って、これを実施して参ります。さらに、ArchiCADユーザーに限らず、弊社が提唱しているOPEN BIMのコンセプトと同様に日本の建設業界の皆さんにSolibri Model Checker™を利用して頂きたい思います。

 8月28日東京、31日大阪で開催されるArchiCAD 16新製品発表会でSolibriをお披露目致します。