2011年8月24日水曜日

AIDEA 社の継続的な学習

(これはマニラを拠点とするAIDEA社のBIMの取り組みについての紹介の続きとなります。前回のポストはこちら:AIDEA 社のBIM マネージャー
AIDEA社について私が見た中で、おそらく最も注目すべきコンセプトは「継続的な学習」です。個々および会社全体に向けたBIMに関する教育は、1度だけすればよいわけではなく長期間に渡る時間とお金の投資が必要とされます。最近の状況は、インターネットの大きな波が起こった90年代後半に似ています。企業は洗練されたWebページを作成し始めましたが、初期投資だけではデータの継続的なアップデートを補うことができませんでした。現在、BIMを導入している多くの企業が、この状況と同様に初期段階での学習期間を終えた後、努力を怠るという傾向にあるように思えます。これは大きな間違いだと思います。Webページでの経験から学んだはずですが、それでも多くの人がBIMにおいても個人および会社全体での継続的な学習が必要だということに気づいていないように思えます。
個人について言えばこれは明らかです。まず始めに重要な点ですが、AIDEA社ではArchiCADの知識を持った人を採用しているわけではありません。これはそのような人材を確保することが不可能だからというわけではありません。実際フィリピンでのArchiCADの使用は急速に広まっています。しかし、AIDEA社が優先しているのは、どのようなソフトのユーザーであっても、優秀な若い建築家を採用するということです。AIDEA社のCEOであるジョジョトレンティーノ氏は、BIMを教えることよりも優秀な建築家を育てることの方が格段に難しいと考えています。さらには、ArchiCADの知識が中途半端であった場合、時には間違ったコンセプトの認識を正す必要があり、その為に余計な時間が必要になることもあります。

AIDEA社では、新入社員はまず1週間のArchiCADのトレーニングを受けます。この期間には、AIDEA社内でのインストラクターによるハンズオントレーニングや会社のBIMマニュアルを理解することなどが考えられます。こういったトレーニングに1週間という期間は、それほど長いわけではないと思います。しかし、その後は実務の中で学ぶことになります。最初の1週間のトレーニング後に1人で取り残されるようなことがないということも重要です。それぞれの新入社員には専属のBIMチューターが1年間サポートします。チューターは毎朝、担当する新入社員の上達をチェックし、ArchiCADおよびその他ソフトに関する問題や、その他一般的な問題について回答し、AIDEA社のBIM標準に対してスムーズに取り組めているかどうかを確認します。前回の記事で述べたように、社員のBIMに関する上達はモニタリングされており、またそれが年間の個人評価にもつながります。単純に言えば、BIMの知識の向上なしには、昇給または昇進はありえません。

会社全体の"生涯学習"というスタイルは、さらに興味深く、ある意味では個々の教育にも似ています。"新入社員研修"に相当するのは、2005年に実施された2D CADの一斉アンインストールによる、3か月の"ArchiCAD短期集中講座"となるでしょう。(この話についての詳細はこちら)しかし、それはただの始まりにすぎず、それ以来ずっとAIDEA社はノウハウの完成を目指し続けています。しかし、その必要性は如何ほどでしょうか?また、なぜ一般的な企業は作業方法を決定したとしても、続く3-5年間でそれを実施できないのでしょうか?これはBIMがまだ、一般的な2D CADや会計ソフトが有する、"固定的な"ノウハウと一般的に受け入れられるプロセスのレベルまで達していないからでしょう。BIMは大きな進化であり、Graphisoftを含むメーカー側にも継続的な改善が求められています。新機能の追加や調整は当然、作業プロセスにも影響します。操作はよりシンプルになり、新しい可能性が広がります。従って企業のノウハウもそれに伴い使用方法を改善する必要があるでしょう。AIDEA社ではこういった業務改善はBIMマネージャーが担当しており、毎週のミーティングでArchiCADの新しいバージョンやその他のBIMソフトの利点および会社にとっての適用性等について話し合います。変更が認証されるとBIMのマニュアルが更新され、それを文書化します。こういった変更が重要であるため、新しいやり方について学ぶことができる社員に向けたセミナーを開催しています。
しかし、継続的な学習という考えはアップグレードの為だけではありません。日常業務においても同様です。全てのBIMユーザーは会社全体の利益となるような新しい方法を発見する可能性を持っています。これらの発見を収集するのがスタジオBIMマネージャーの役割で、毎週のミーティングで提案し、話し合います。このような追加事項は頻繁にあるそうですが、承認されれば、それがAIDEA社のプロセスの一部となります。設計者はこれらの改善について"ARCHITIPS"を通して通知されます。このARCHITIPSについても注目すべき方法です。

ARCHITIPSAIDEA社のイントラネット上にあるオンライン"ジャーナル"です。ArchiCADの学習に関連するものであり、BIMマネージャーが"編集長"となる会社内のBIMブログと考えるとわかりやすいかもしれません。BIMマニュアルの変更、利用可能な新たなGDLオブジェクトやアドオン、またはワークフローに導入されたその他の変更がレポートされます。全員がこれを読まなくてはなりません。「ARCHITIPSに書いてあれば、聞いていないとは言ません」つまりルールです。しかし、AIDEA社の設計者はただの読者であるだけでなく、積極的に参加することもできます。多くの設計者は、問題の解決についての新しい発見や、データを軽くする新しいテクニックについて、頻繁に投稿しています。こういった方法でARCHITIPS"継続的な学習"のコンセプトの中心的存在とも言えるでしょう。
つまり、"継続的な学習"なしにはAIDEA社の現在における、高度なBIMの取り組みや効率性に達することはできなかったと思います。実際、AIDEA社が競合他社に対して非常にオープンであり、ノウハウを公開しているという事実を忘れてはいけません。AIDEA社の自信はこういったところにも見られます。毎日改善がされ、良い方向に向かっているので、BIMの知識を外部に共有することを恐れないのでしょう...

2011年8月11日木曜日

AIDEA社のBIMマネージャー

このポストについて、もっと早く書かなくてはなりませんでしたが、最近はかなり忙しい日々が続いていました(もちろん良い意味ですが)。前回AIDEA社の組織とプロセスの詳細について紹介することを約束しましたので、早速AIDEA社のBIMマネージャーのシステムから紹介致します。このポジションはおそらくAIDEA社独自の配置となっていますが、このBIMマネージャーというポジションについては、どうやら日本でもホットな話題となっているようです。(5月にこのトピックについて書いた後、多くのフィードバックと質問を頂きました)
最初にAIDEA社には設計者”BIMオペレーターといったポジションは存在せず、 かわりに”BIM設計者だけであるという点が重要なポイントです。また通常、他の会社で多く見られるケースである、プロジェクトがモデルマネージャーに任命されるということもありません。それぞれ、全ての人が個々のデータを担当し、モデリングルールを遵守し、モデリングします。また、プロジェクト設計者はプロジェクト全体の品質管理および最終的なBIMモデルの調整を担当します。ここでも同様に、AIDEA社では建築設計とBIMモデリングは1つであり、同じものであるということです。
しかし、とりわけ注目すべき点として、AIDEA社にはBIMマネージャーが6名もいるのです。AIDEA社には5つのスタジオがあり、それぞれが15-20名程度の設計者で構成されており、それぞれのスタジオをスタジオBIMマネージャーが統括しています。頭が痛くなってしまう前に申し上げますと、このスタジオBIMマネージャーというポジションは専任ではなく、この仕事における業務の割合はほぼ50%となっており、それ以外は通常の設計業務を兼務しています。この役割として、専任のポジションとなるオフィスBIMマネージャーに報告をします。それでは、AIDEA社のBIMデザインプロセスの役割について見ていきましょう。



以下スタジオBIMマネージャーの担当する業務となります。
  • プロジェクトのセットアップ スタジオBIMマネージャーは新しいプロジェクト毎に積極的にセットアップに参加します。セットアップは常に重要なポイントとなり、適切になされれば後に多くの問題が回避されます。
  • 技術的なサポート スタジオBIMマネージャーはローカルの”BIMリーダーであり、何か問題があれば誰でも自由にスタジオBIMマネージャーに助けを求めることができます。
  • コンプライアンスのモニタリング スタジオBIMマネージャーは、BIMプロセスや会社のBIM規格への準拠を正しく実行するために、あらかじめ定義されたプロセスの特定の段階で各プロジェクトをチェックします。このプロセスは、"プロジェクト監査"と呼ばれています。
  • BIMの学習情報を統合 :各ユーザーは、会社にBIMノウハウをレポートするようになっており、これらの学習情報をまとめるのはスタジオBIMマネージャーが担当します。
  • オフィスBIMマネージャーへの報告 スタジオBIMマネージャーは定期的にプロジェクトチェックの結果を報告し、未解決のBIMの問題や会社におけるBIMの活用および改善案をオフィスBIMマネージャーに提案します。
スタジオBIMマネージャーは、オフィスBIMマネージャーが開催する毎週の定期的なミーティングに参加し、前週の問題点や、ユーザーが発見した新しい方法や改善点について話し合います。そこで、他のプロジェクトにも応用できるソリューションなどがあった場合、"ARCHITIPS"と呼ばれる、同社の内部ブログで公開することで、それを社内の"公式"とします。ミーティングでBIMマネージャーは技術的な問題についても話し合います。例えば、新しいオブジェクトの共有や、ソフトウェアアップデートの導入、BIMマニュアルの変更の承認など。
オフィスBIMマネージャーはもちろん、専任のポジションになります。また、オフィスBIMマネージャーは建築家でもありますが、この専任のポジションの在任期間は2年間となっており、その後は通常の建築家のポジションに戻ります。AIDEA社の社長、ジョジョトレンティーノ氏によると、設計者にこのポジションに就いてもらう際、一時的なポジションとすることで、専任のBIMマネージャーのこのポジションに対する懸念と責務の厳しさに燃え尽きてしまうことを避けることができるそうです。また、オフィスBIMマネージャーは"業務改善や品質保証を担当する部署"にも属し、AIDEA社での設計品質保証の担当者と一緒に業務をします。プロジェクトを成功させるためにはBIMモデルの質は全体的な建築の質から分離することができないものであり、双方が確約されなければならないというAIDEA社の信念を示しています。











AIDEA社の組織で、もう一つ顕著な特徴は BIMプロセスにおける人事部門との統合です。プロジェクト監査の結果は人事部門に送られ、BIMスキルの改善をモニタリングし、これが毎年個人評価の重要な一部となっています。 こういった背景により、社内のBIMの知識レベルが非常に高いことも納得できます。しかし、個々のスキルの高さが最も印象的であったというわけではありません。(もちろん、高い専門的なスキルをもった社員もいましたが、例えば高度なGDLスクリプティングができる社員はこの時点ではいませんでした)重要なのは、全体的な社員の質が高かったということです。AIDEA社では設計に携わるポジションにいる社員は、アルバイトから常務取締役(50歳を超える)まで全てBIMソフトの熟練者でした。
次回は、AIDEA社が実施している具体的な学習方法についてご紹介します。