2011年3月25日金曜日

ACT for JAPAN


東北地方太平洋沖地震から数日後、世界中でFacebook上に「PRAY for JAPAN」と記された新しい「バッジ」が広まりました。これは、福島第一原発の問題の解決と、地震と津波の被災者の方々へ向けた応援の表現です。そしてさらに数日後、「ACT for JAPAN」という別のバッジも現れました。私は、誰もが神の手助けを信じ、期待していることに、疑問を持つわけではありませんが(まさに今必要とされているかも知れませんが)、個人的には、このような状況でむしろ「自分に何ができるか」という観点に戻って、このバッジ(「ACT for JAPAN」)を使うことを選びました。


しかし、私たちには何ができる(ACT)のでしょう? 最初に浮かんだのは、イギリスで昔、戦時中にスローガンとなっていた「Keep Calm and Carry On (落ち着いて頑張りましょう)」でした。今、私たちに敵がいるわけではありませんが、このアドバイスは重要です。パニックによる買い占め、国外または遠隔地への脱出、ビジネスミーティング、イベント、レジャーのキャンセルなど、こういった行動により、私たちは経済の悪化をより深刻化させることとなるでしょう。これは個人と企業の双方に当てはまります。強い経済活動が、効果的に被災者を救い、被災地の復興に役立つのです。
では、企業として「頑張る」という以外、何か手立てはないのでしょうか? もちろんあります。第一に、言うまでもないかもしれませんが、地震や津波の影響を受けたお客様に対し、商品の紛失及び破損を無償で交換することです。 しかし、これだけでは被災地の私たちのお客様だけに向けた対応であり、その他圧倒的多数の被災者の方々のためではありません。15年以上、日本で事業を展開しているグラフィソフトジャパンとして、私たちのお客様だけではなく、日本中の人々への責任義務を感じており、私たちは人道的な寄付と救援活動に協力したいと思います。当然ですが、私たち企業として唯一できることは、私たちのBIMシステムであるArchiCADを販売することです。その中で様々なことを検討した結果、6月末までの期間、ArchiCADレギュラーバージョンの売上げから 10,000円、ArchiCAD Soloの売上げから5,000円を義援金とすることといたしました。(現時点では、私たちの限りある資金のためこの金額ですが、売上げが伸びた場合には、さらに追加したいと思います。)
これにより、本日から6月末までにソフトウェアを購入頂いた全てのお客様もまた、私たちと一緒に救援と復興に参加されたこととなります。これに加えて、私たちはまた、社員からも義援金を募り(もちろん、厳密に個人の自由と匿名性を基にします。私はこのような義援金は非常に個人的な問題であると考えています。)、集まった義援金を毎月、日本赤十字社に送りたいと思います。当然のことながら、正式にホームページ上で義援額を報告する予定です。私たちはこの活動により、少しでも多くの方の復興に役立つことを願っています*。
外資系の企業にとって、日本はビジネスをすることが難しい国だと言われます。しかし私は、これまでの日本での経験から、そうではないと思っています。品質の良い製品をリリースすることや間違いのないサポートを行うことにより、ビジネスの可能性を広げてくれます。実際に、一度信頼関係が確立されれば、他の多くのオープンな国の真偽は別として、日本の中でビジネスすることは決して難しくないことを学びました。私たちは、これまで日本という国に非常に親切に接していただいており、これまで受けた恩を少しでも返すことができればと思っています。
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* 東北地方沖太平洋地震に関するグラフィソフトジャパンの対応はこちら

2011年3月17日木曜日

BIM の相関図 - Part 2

先日の投稿で、BIMの導入を成功させるために必要となる組織内の役割について紹介致しました。今回は、小規模の組織でそれらの役割をどのように兼任できるかを紹介したいと思います。
大規模組織

大規模な組織で、「建築BIM」としてのみ実施している場合、コラボレーティブBIMディレクターは必要ないかもしれません。しかし、それ以外の全ての役割は別々の人が担当する必要があります。特に、BIMディレクターの役割は非常に重要です。経営者の理解及び適切なサポートがない場合、ユーザーは目先の仕事の結果ばかりが求められていると感じ、元のやり方へと逆戻りする傾向があります。また、陥りやすい他の誤解は、BIMのコンセプトをユーザーに「売り込む」ことを怠ることです。最初に戦略と利点を説明するだけでは不十分です。モチベーションを維持させることも非常に重要です。この意図を伝えるためには、進捗レポートと「成功事例」のプレゼンを実施することは実務の技術的なトレーニングと同様に重要です。
中規模組織
中規模の企業(従業員数30100名)の場合、コラボレーティブBIMディレクターの役割自体が必要でも、別々の人担当する必要はないでしょう。BIMディレクター、あるいはインターナルBIMマネージャーのいずれかが、兼任することができます。チームモデルマネージャーについては、専任の担当者とするか、設計者(またはプロジェクト設計者)が兼任するかは、主にプロジェクトの規模によります。ただしこの規模では、個々のプロジェクトでインターナルBIMマネージャーにこの役割を依頼することはお勧めできません。本来の仕事ができなくなるからです。


小規模組織①
設計者1030名の企業では、経営者として、専任のインターナルBIMマネージャーの余裕はないと感じるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。私はこの投資は価値があると主張します(他の設計者の生産性を大幅に向上させるからです)。まずは、兼任のBIMマネージャーをお勧めします。2つのパターンが考えられます。1つ目は、1人の設計者が設計責務に加えてこの作業を兼任します。このパターンは、その担当者が兼任しているBIMマネージャーの仕事が徐々に本格的なBIMマネージャーの役割となることを嫌がらず、自分の設計者としての仕事を守るために責務をおろそかにして、BIM導入の障害とならない事が条件となります。もう一つのパターンは、BIMに熱心な管理者が、この役割を担当する場合です。そのような人材がいれば、成功率はかなり高くなるでしょう。







小規模組織②

建築家10名以下の企業では、役割はかなり統合されます。この場合、BIMに熱心で精通した人が1人いて、他の設計者に対して意見を通す事ができる人なら、十分成功できます。敢えて「BIMマネージャー」と呼ぶ必要はないでしょう。「Mr. BIM」として、全ての役割を1人でこなし、実例を持って他の設計者を先導します。しかし結局のところ、大規模な組織でも小さいチーム単位ではこのような事が起きているのではないでしょうか?企業の規模に関わらず、BIMのような業界を一新するようなプロセスには、先陣をきる指導者、きっかけを作る熟練者が必要です。使用する人が賢明であり熱心でなければ、テクノロジーはただの無数のコードでしかないのです。

2011年3月14日月曜日

We are here to stay

人生は不思議なものです。ある日、お客様とカンファレンスでお会いし、翌日、その方々の安否を確認することとなりました。大惨事が起きた3月11日金曜日は、今後決して忘れることのできない日となるでしょう。亡くなられた方々にお悔やみを申し上げるとともに、被災されたお客様、パートナー様及び一般の方々に、心からお見舞い申し上げます。

私たちグラフィソフトジャパンは全従業員が無事であり、本日のオフィスは日常に近いものでした。数名は交通機関の影響により遅延となりましたが、皆、通常業務をし、サポート電話はいつもと同じように忙しかったです。また、オフィスの隅の音を消したテレビで、終日ニュースが報道されていましたが、社員は誰も見ていないようでした。私にとって、日本人のこういった対応は心強いものです。危険があることを認識しながらも、今できる最善のことは、パニックに陥らず、普段通り仕事をすることだと、皆が認識しているのです。

日本と欧米のメディアの両方に耳を傾けていましたが、世界では、地震や津波の恐ろしい画像や映像にショックを受けているのはもちろんですが、それと同じくらい、日本人の穏やかな回復力に驚いているようです。

私たちは仕事を続けます。また、私自身としては日本で皆さんと一緒に仕事を続けることを決心しています。グラフィソフト社は物事が良い方向に向いている時にだけ日本のホスピタリティとビジネスチャンスを満喫したいというような会社ではありません。私たちは厳しい状況のときにもここに留まります。今は、こういった状況ですが、私たちは良い時代が戻ってくると確信し、皆様と協力して参ります。

2011年3月4日金曜日

BIM の相関図 - Part 1

中規模の建築事務所の経営者が、BIMのコンセプトに魅了されます。会社を合理化する方法であると確信し、BIMのシステムを購入し、BIMのマネージャーを任命し、「今年中に全てをBIMにする」という目標を伝えました。そして、そのまま安心しきっていました。しかし、その年末にはBIMプロジェクトは大失敗になりました。社員はBIMを嫌い、従来通りの2D手法に戻ってしまいました。
このような話は、よくあることです。しかし、何が間違っていたのでしょうか?様々な要素がありますが、現状で見受けられるBIMソフトウェアの機能の優位性や、企業がBIMで何を達成したいかという方向性やそれを実現する計画の重要性については今回は触れません。これらはいずれもBIMでの成功に重要な項目であり、私も過去に何度も触れてきました。今回の投稿では「相関図」に絞って書きたいと思います。つまり、BIMにはどのような役割があり、誰が担当するかということです。
残念ながらBIMは、新車のように買ってそのまま運転して帰るというわけにはいきません。
例えて言うと、ERPシステムに近いものがあると思います。ERPシステムは主に経営者や会計担当者が使用するものですが、導入の際はさらに多くの社員が関与しなくてはなりません。そうでなければ、導入は惨憺たる結果になることも考えられます。ERPシステムは業務過程の再考が必須であり労力のかかる作業ですが、一度導入してしまえば業務は以前よりはるかに効率的になります。BIM導入もこれに近いものがあります.
重要な点は、実際の設計担当者から管理者まで、全ての関係者がBIMに組織的に取り組まなければならないということです。しかしこれは、「全て」の人が「全て」を習得しなくてはならないという意味ではありません。例えば、管理者にとっての「取り組み」は必ずしも「使える」必要がある、という意味ではありません(それに越したことはないですが)。それでは、役割の種類とその意味を「ボトムアップ」に見てみましょう。

ユーザー:実際のユーザーからの協力がなければ、BIMプロジェクトが成功するはずはありません。それにも関わらず、「なぜBIMが導入され」、「どのような到達目標があるのか」ということを、ユーザーが理解していないケースは多々存在します。管理者は十分な時間を費やして、企業としてBIMで何を達成したいか、導入努力によりどのような効果があるのか説明する必要があります。この説明の後に、適切なトレーニングを提供し、予想される質問に対応できるような明確な社内サポート体制が必要となります。
チームモデルマネージャー:各プロジェクトチームにつき1人のモデルマネージャーを選任し、BIMモデルの整合性を管理します。モデルマネージャーはファイルの構成や、チームワークであればモデルの分担を検討し、社内のBIMマネージャーによって設定された標準を導入し維持する役割があります。当然の事ですが、モデルマネージャーはBIMエキスパートであり、BIMモデル作成を理解して、楽しんでできる人が良いでしょう。多くの場合、この役割はプロジェクトの設計担当者が適任で、BIMシステムに精通しており、プロジェクトの規模が大きくない事が条件です。この条件に該当しない場合、2つの役割を分けたほうがよいでしょう。
インターナルBIMマネージャー:経営者の望む社内の全てのことを一人でやってのけるのが、BIMマネージャーです。実際にはそのような人材はいないかもしれませんが、その役割は非常に重要で、多岐にわたります。BIMの社内標準の検討および文書化、導入および成果の監督、自身および外注による必要な社内向けコンテンツの提供(オブジェクト、テクスチャーなど)、テクニカルサポートの管理および提供、利用者の習熟度の定期的な確認、必要に応じてトレーニングプログラムの管理などを行ないます。その人の性格も重要な要素です。BIMマネージャーは社内(場合によって社外)において「BIMエバンジェリスト」となり、BIMの将来を確信している存在でなくてはなりません。この役割は社内のIT担当者から選任することが多いのですが、それは間違いです。BIMマネージャーは設計の流れを徹底的に理解している必要があるので、IT担当者に建築の知識ががなければ失敗の原因となるでしょう。2D CAD管理者も候補となるでしょう。CAD管理者が設計者であれば、決して間違った選択ではありませんが、以前は2D CADを担当していた管理者がBIM概念にしっかりと取り組んでおり、BIMプロジェクトをひそかに投げ出さないように確認する必要があります。理想的には、熟練した設計者がこの役割を担当することですが、残念ながら、一時的であれデザイン作業を離れて、BIMマネージャーの役割を引き受ける人を探すのは困難でしょう。建築はそれほど魅力的なのです。。。
コラボレーティブBIMマネージャー:ここまで建築BIMだけで、他の分野との連携については触れてきませんでした。BIMを建築分野だけで利用することにも価値はありますが、本来の能力と効果は多分野での連携を実践することで発揮されるのです。しかし、構造や設備とのBIM連携は複雑な作業のため、軽視できません。通常このような連携はオープンなBIM環境で行われ、他のシステム(設備、構造)の機能に加え、IFC標準に関するある程度の理解が必要となります。大抵の場合、設備や構造担当者は社内にいない為(ゼネコンであれば別ですが)、ここから先はプロジェクトの契約関係およびビジネス面の理解が必須です。ここまでは、主に設計者が必要となっていましたが、この仕事はエンジニアやプロジェクトマネージャーが担当することができます。ただし個人的には、自分も設計者だからかもしれませんが、技術に精通した設計者が最適だと考えます。いずれにせよ、経歴に関係なく、BIMシステムの徹底的な理解、高いコミュニケーション能力、そして業界の幅広い知識が必須です。この仕事もまたプロジェクトにより異なりますが(外注業者および契約条件が異なる)、巨大プロジェクトを除けば、専属の担当者を必要としないので、コラボレーティブBIMマネージャーは複数のプロジェクトを監督できます。
BIMディレクター:この業務は、技術というよりもビジネス寄りの役割です。BIMディレクターの主な責任は必要な契約上の体制を確保することで、BIMシステムの導入による利点を企業の利益へと変化させる分野です。従って、契約プロセスに深く関与する必要があり、ある程度の法的な知識、特に知的財産権に精通している必要があります。ここでの疑問は、成果物のどの程度をBIMデータとするべきか、というものです。現状は、そもそも成果物は純粋に2DのためBIMデータは全く含まれていませんが、これによりBIMの有効性が大幅に制限されており、徐々に変化する必要があります。社内体制のこの層でBIMシステムの運用知識は必要ありませんが、BIMディレクターもまたBIMによって実現可能な事、不可能な事について認識し、業界の方向性に関する幅広い理解が必要です。インターナルあるいはコラボレーティブBIMマネージャーよりもさらに、BIMエバンジェリストとして業界に対する企業の「BIMの人」となる必要があります。
「こんなに新しい人材が必要なのか!」と思われるでしょう。確かにこの体制は小さいものではなく、中規模の企業ですら整備が難しいかもしれません。しかしこれは「役割」ですので、兼任しても構わないのです。次回は、小規模の組織でも同じ機能を果たしながらどのように役割を兼任できるか書きたいと思います。