2010年7月15日木曜日

新しいバランス?

日本のBIM市場に新たに関わるようになってから1年が経とうとしていますが、ゼネコン(日本独特の企業形態)と建築事務所ではBIMに対する姿勢がはっきり異なることが分かってきました。一般的にゼネコンはBIMに対して熱心に取り組んでおり、生産性を改善するための長年期待してきたソリューションとして、導入に対しても迅速です。これに対し、建築事務所の姿勢は積極的なものではありません。例外もありますが、どちらかと言えばためらっているようで、いずれ来るとは思っているものの、どうしても避けられないという状態になるまで待っていたい、というのが大半です。後々導入してからも、現状をできるだけ壊さないように、初期のデザインとプレゼンツールとして使っています。

この理由としてあげられることは、「フロントローディング」の考え方にあると思います。この考え方では、従来の2D手法の代わりにBIMを使用すると、作業の負荷が工程の初期段階に大幅に移行することになります。例えば、確認申請段階ではなくコンセプト段階で正確な床面積を出すこと、実施設計段階ではなく確認申請段階で設備構造との整合性を図ること、施工会社が現場の図面で修正し解決していたような詳細の作業を意匠設計で3D断面詳細を利用して解決することなどです。この結果として、一方では各段階での作業負荷は増えるのもの、他方では全体の作業負荷が減り、さらに重要な点として、意匠と設備・構造設計者間の初期の段階で問題を発見でき、より簡単に、また適切にこれを解決することができます。実際、図面上で配管と梁の干渉を解決できれば、発注内容の修正、作業の再割当て、施工完了部分の解体よりもはるかに安価になるのではないでしょうか?














ゼネコンはその存在が「デザイン・アンド・ビルド」であるため、工程の全ての部分の責任をもっており、施工段階でのコストを削減することで大きな利益を上げていると言えます。今ゼネコンがBIMを熱心に推奨していることにもうなずけます。設計事務所は施工で費用を削減することによる利点はないと言えますし、施工図面はゼネコンが作成している場合もあります。しかし、だからといって設計事務所にとってBIMの導入は作業が増えるだけで、施工会社が実感できるような利点はないのでしょうか?

そんなことはありません。建築事務所でも実際にフロントローディングは起きており、同様に利点も感じています。BIMのフロントローディングはどんな会社の必要にも合わせて簡単に最適化できます。
以前は確認申請段階で行っていた決定を基本設計に前倒しすることで、確認申請で様々な効果があります。確認申請部分に注力を注ぐことで、実施設計がより円滑になります。同等の品質の成果物をより少ない作業で完成させることだけが目的であったとしても、BIMで解決できます。でもそこで終わらせるのではなく、さらに良い品質を求めることはできないでしょうか?基本設計段階でも設計やその一部を3Dにし、施工用に3D詳細を作成することで、施工者が現場でなんとかするということではなく、設計通りに建物が建てられることを確実にできます。

しかし、企業は誇りだけで存続するわけではありません。建築事務所がより質の高い設計図書を提供すれば、当然の報酬が必要です。まずは施工会社から「ようやく仕事が正しくできるようになったことになぜ支払いが必要なのか?」と抵抗されるかもしれません。実際設計の問題で起きる障害、費用追加は頻繁に発生し、施工会社にとって費用面での損失が起きるからです。しかし、この論議は成り立ちません。資本主義では、他の人よりも価値を生み出すことが出来れば、遅かれ早かれ認知されるものです。プロジェクトがより整合性が高く、建設の問題が少なく、施工会社にとっても利益を生み出すことができれば(例えば保険費用を押さえるなど?)、これを実現した人たちと利益を共有する必要があるのです。高額の設計費なのか契約料なのか(施工会社も整合性の取れた図面を安定して提出できる事務所を好むのは当然です)は今後の問題であり、BIMの普及が広まれば遅かれ早かれ間違いなく設計事務所と施工会社間の関係が調整されていくでしょう。














ここまでの話にはいろいろな問題があるようにも聞こえます。現状どおりで問題ない、壊れていないものをなぜ直すのか?「自分だけは例外になれませんか?」と言うかもしれません。もしかしたら、しばらくの間はそうかもしれません。より整合性が高く費用を抑えられるのであれば、誰かが間違いなく始めることは想像出来るでしょう。設計事務所全てがBIMが提供する手法を導入することをためらっていると、ゼネコン側から「自社設計」という競争力が増加することでしょう。実際すでにゼネコンは自社設計施工率の量が増えており、BIMを活用しない分断した作業から出る問題が減っている、という報告もあります。とはいえ、独立した建築事務所なしでは建築や国全体が質の低いものになります。よって、上記のような「新しいバランス」は望ましいだけでなく、業界にとって必須だと思います。

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