2009年9月30日水曜日

チームワーク 2:「期待」と「実現」

とあるプレゼンテーションの後、弊社のCEOに電話をしました。「プレゼンはどうだった?」と聞きくと、「申し分なし」との事。「今夜はグラフィソフトの人間であることを本当に誇りに感じたよ」と答えが返ってました。思った通りの答えでした。ただし、何事も実際に起こるまでは安心できません。マラソン選手は一番先頭を走っていても、ゴールでテープを切って初めて喜びを実感できるのと同じ心境です。

この話は今から5年半前に始まりました。20043月に発表されたLFRT (Large Firm Round Table)、米国の大手設計事務所70社からなるAIA主催の専門グループ)によるCAD/BIMベンダー当て公開文書では、モデルベースコラボレーションの基本条件が選定され、このシステムの導入が各社に要請されていました。驚く事に、この条件はその数週間前の社内会議で決定された弊社の考える方向性と非常によく似ていました。この公開文書はモデルベースコラボレーションの重要性を裏付けるものとなりました。この文書の公開前は計画の実行時期についてためらいがありましたが、すぐに実行に移す必要がある事に疑問の余地がなくなったのです。

しかし、この機能を搭載するには、まずArchiCADのコアプログラムを全体的に書き直す必要がありました。大規模な開発となる事が予想できました。ある意味で心臓手術のようなものでした。最初の段階では23人の開発者が通常のリリース計画とは別個に割り当てられ、数億に及ぶArchiCADのラインコードの奥深いところまでコーディング作業を進めていました。案の定、計画よりも作業量は拡大し延期され、新しいチームワーク機能は常に「次のバージョンの後で」と後回しされていました。私が2006年に退社したときには、この機能は実現しないだろうとさえ感じていました。退社後も元同僚とは連絡を取り合っていましたが、昨年「次のバージョンで」新しいチームワーク機能を発表すると聞いたときにはとても嬉しく思いました。このようなわけで、日本での復職について話合うため今年3月にグラフィソフト社を訪れた際、せっかくの機会ですからチームワーク機能のプレビューを見せてもらいました。

そして驚かされました。公開文書に書かれていた「全ての」要望が現実にかなえられていたのです!これは2004年に想像していたものを遥かに超えていました。もちろん、グラフィソフト社への復職への士気が高まったのは言うまでもありません。現在にいたるまで、チームワーク機能について積極的な意見が日本を含めた各国のユーザーから寄せられていています。しかし、旅路は家に帰るまで終わりません。今年6月には、LFRT2004年に要求したシステムを弊社が開発したことを伝える公式文書を送りました。その回答として、業界関係者で「BIMベンダーの日」を設定しBIMの主要プロバイダーを招待するので、各社のチームコラボレーション戦略をプレゼンして欲しい、との要望が返ってきました。LFTRは特定のベンダーに影響される事を懸念していたので、各社が戦略プレゼンを行えるようにグラフィソフト社の他にベントレー社、ゲーリーテクノロジーズ社、オートデスクも社を招待しました。

s先週、米国セイント・ルイスで、弊社のビクター・バルコニー社長自身が50名以上のCIOに対して2時間ほどの発表を行いました。その中で、弊社の戦略の焦点は「建築」であり、エンジニアリングソリューションの「主要製品」との連携、IFCをベースとした「オープン・システム」であることの重要性、業務連携におけるArchiCADの価値、およびIPD (Integrated Project Delivery)に関する方針について説明し、その全てとチームワーク2TW2)の関連性について説明しました。その後、TW2の実際のデモが円滑に行われ、それに続いて質問が投げかけられましたが、特に多かったのは「いつ実際に試すことができますか」というものでした。

もちろんこのプレゼンテーションは機密保持のもとに行われましたので、他社のプレゼンテーションに対する公式な見解はありません。しかし、イベントに参加した弊社マーケティングディレクターのアーコシュ・フェメテール氏から聞くところによれば「今日の主役」が誰であったかは明らかであったようです。これで、チームワーク機能が業界の「流れを変える」と確信できる十分な根拠となったのです。

もちろん、旅はまだ始まったばかりです。あと数週間すれば日本のお客様も新しいチームワーク機能の可能性や操作性をお試しいただくことができるでしょう。Get ready!

2009年9月16日水曜日

ArchiCADの「正しい」使い方?

以前日本で勤務していた頃によく耳にしたのは「なぜ3Dなのか」という質問でした。それに対して私は、BIM(その頃は「バーチャルビルディング」と呼んでいた)の利点を説明していました。今ではそのような質問はほとんど耳にしませんが、その代わりに「BIMの正しい使い方は?」と質問されます。しかし「正しい」使い方など本当にあるのでしょうか。

BIMドリーム」と言われますが、それは整合性の取れた設計図書、構造データ、正確な数量、そしてパース画像が、一つの建物モデルから作成できることを意味します。面白いことに、このコンセプトの利点を理解された方は「全てをすぐに手に入れたい」という衝動に駆られるようです。結局のところ、BIMアプリケーションを購入する理由はここにあるのでしょう。そして、BIMを手に入れると、クリスマスツリーに集まる子供の様な気持ちになります。新しいおもちゃに興奮し全てのおもちゃで同時に遊ぼうとしますが、遊ぶ時間はすぐに終わり、「どのおもちゃもちゃんと遊べなかった」と泣きだしてしまいます。「おもちゃは一度にひとつだけ」と言い聞かせる必要があるのです。BIMの導入についても同じことが言えるのではないでしょうか。

新しいことの学習には、生産性の一時的な低下がつきものです。BIMを利用して大きな変更を実行しようとすると、生産性の低下は長期で困難なものになり、目的が不明瞭となるので期待したほど効果がないと感じることになります。目的を明確に保てたとしても、設計業務を行いながら、いつまでも学習している余裕はないでしょう。少しづつ変更を行えば、効率よく学習でき、生産性も継続的に向上します。しかし、何から始めたら良いでしょうか?どのような順序で進めるべきでしょうか?これまで数々の導入事例を見てきましたが、成功したものもあれば必ずしも最善ではないものもありました。導入方法はそれぞれ異なっていますが、いくつかの例をご紹介します。

最も一般的なのは、「コミュニケーションツール」として、最初に基本設計、その後に実施設計段階でArchiCADを利用する方法です。モデリング機能を最大限活用してプレゼンテーションや関連する設計図書を用意すれば、施主への印象を良くする事ができます。施主との打ち合わせに実際にArchiCADを持って行き、設計変更をリアルタイムで反映している設計者の方もおられます。打ち合わせの最後にVBEのウォークスルー(もちろん更新された設計図書も)を施主に提供できるのです。これで納得してもらえなかったら、他に何を使っても納得してもらえないでしょう。

ArchiCADの利点は、必要な時に必要な精度で設計図書を作成できることです。今までは、基本設計にBIMデータを利用し、使いなれた2D CADで設計図書を完成させていたかもしれません。この手法に問題はありません。しかし次の段階として、ArchiCAD「実施設計ツール」として利用する事を検討してください。精度の高いモデルを作成する事で、モデルから設計図書を直接作成できるからです。モデルを修正するだけで全ての図面が自動的に更新されるので、設計変更の管理が簡単になります。

しかし限界はどこでしょうか?全てモデリングするのでしょうか?そんなことはありません。1:20スケールで設計図書を作成する場合、全てのモデルデータを入れることはできません。全てモデリングするのはもっとコンピューターの性能が向上した数年先の事でしょう。あらかじめ必要条件を設定し、モデル作成から2D図面に切り替えるタイミングを決定します(もちろんArchiCADは強力な作図ツールでもあります)。つまり、BIMモデリングそのものはゴールではなく、整合性の取れた設計図書を作成するツールに過ぎないのです。設計図書はまだまだコミュニケーションの基盤となっているのが現状です。

BIMデータを活用するためには、従来の設計の範囲を超えて、意匠、構造、設備モデルを連携させる事が必要です。BIMデータ変換が可能となり、「業務連携ツール」としてArchiCADを使用する会社が増加しています。この場合、設計者と技術者の間でやり取りが行われます。IFCや他のファイル変換を利用し、異なるアプリケーション間で構造や設備のデータを連携させます。その結果、データの整合性が保証された建物モデルが完成します。配管や構造の干渉をおさえる事ができますし、設計後期において構造設計の後で玄関ホール中央に不要な柱が追加されるようなことも回避でき、安心して設計を行う事ができるのです。

従来、設計業務は直線的に行われていましたが(設計図書作成前に検証作業を行う事もあるが)、下記のような新しい手法を取り入れることも可能になっています。

  • 「環境シミュレーター」として:グラフィソフト社のEcoDesignerを使用して、建物の環境への影響(二酸化炭素排出量)を早期検討できます。必要に応じて、初期段階で設計を変更し、環境に優しい建物を実現できます。
  • 「現場監理ツール」として:建物の部分詳細3Dモデルや時間軸を考慮した4Dシミュレーションを作成することで、設計意図を施工者に正しく説明でき、ミスの少ないスムーズな引き渡しが可能になります。現場での設計コンサルテーションにVBEを利用している実例もあります。
  • 「数量計算ツール」として:目的を限定して詳細なモデリングを行い、モデルから正確な数量の拾い出しができます。モデルから全ての数量を拾い出すには相当の技術と経験が必要ですので、まずは簡単な面積計算から始める事をお勧めします。その後、さらに作業範囲を広げてモデルから拾い出しを行う事ができるでしょう。

上記の様々なBIM導入方法を考えると、今日のブログタイトルの質問の答えがお分かりになるではないでしょうか。BIMアプリケーションを正しくを使う方法は「1つではない」のです。生産性を向上させることができれば、それが正しい方法なのです。BIM導入後の最初の物件で上記全てをすぐには活用できないでしょう。モデルベース設計の導入は段階的なプロセスで、その一つ一つの段階で業務全体における生産性の向上がもたらされます。

最後に、リスクをおさえたスムーズなBIM導入プロセスへの提案をまとめてみました。

  • 目標を設定し、実行する!
    現実的な設定をしてください。会社にとって、そして自分自身にとってBIMへの投資に価値があるか見極める必要があります。段階的に実行することにより、生産性が大幅に低下することもありません。一度に一つの利点(一つの方法)に集中し、成功を積み重ねることが大切です。

実行あるのみ!
計画は重要ですが、過度な計画を行うと期待ほどの結果は得られません。まずは最初の物件を開始し、社内での目標を明確にしてから(全ての目標ではなく1つ)、作業に必要なトレーニングを行います。そして、その結果を観察し、必要に応じて計画を調整し、社内標準やテンプレートなどを作成します。

最終目標を忘れずに!
一つの段階が達成されたら、次の段階を開始し、3Dデータをさらに活用できるようにします。生産性の向上や新しい技術学習には終わりはありません。

So, start NOW – we are here to help you!

2009年9月11日金曜日

BIM祭り

Build Live Tokyoは、日本の「祭り」に似ていると思います。各グループはいい意味で競い合いますが、一番の目的は神輿を担ぐことです。最終的に全員が満足感を味わう事になります。

2月にはまだ日本にいませんでしたので、私にとっては今回が初のBLTイベントです。昨日、ArchiCADを使用している3つのチーム全てを訪問しましたが(そのうち2つのチームは発売予定のバージョン13のベータ版を使用しています)、作業に注がれているチームの活気と集中力にとても感動しました。SkunkWorksチームは果敢にチームワークに挑戦しています。チームメンバーの1人の方は「作業がとっても楽になりました」とおっしゃっていました。このイベント用に特別なホットラインを用意して何でも対応できるように準備していましたが、幸いにもこれまで大きな問題はないようです。

もう6時間しか残っていませんが、様々なソフトウェアを使用しているサブグループからのバラバラのデータを統合させているところで、時間との勝負となっています。皆さんとても疲れていて眠そうでしたが、今は残っているエネルギーを全て出し切る時です。コーヒーを飲んだり、深呼吸したり、作業を急ぎましょう。誰が勝つ事になっても、それぞれが勝ち得るものがあります。このイベントがBIMの可能性を大きく前進させる事でしょう。

終了の18時を迎えた後のビールは格別だと思います。