2009年8月31日月曜日

CADと両面テープ

数日前、棚の上にある古いMacintoshSE30が目に留まりました。このMacintoshはグラフィソフトジャパン創設時からあるものです。

実はこのMacは、私が東工大の学生だった時に初めて買ったコンピューターです。当時学生の私にとってこれはかなり大きな投資でした。受けていた奨学金の3ヶ月分もしたのです(結局、ローンで購入しました)。当時の物価が違うとはいえ、これが今まで買ったコンピューターの中で一番高いものとなりました。それでも、コンピューターを使うことを初めから決心していましたし、実際この買い物のおかげで人生が変わったと言って過言ではありません。このコンピューターでまずMacWriteHyperCardを習得しましたが、次第に建築ソフトが欲しくなりました。この分野に詳しいオーストリア人の留学生に相談したところ、「MiniCADというソフトがあるがあまり満足するものではない」「AutoCADもあるが(*)まだ二次元のみ」「一番良いソフトはもちろん三次元の、建築用に作られているArchiCADである」ということでした。実はArchiCADはハンガリーで開発されており、残念なことに値段がとても高いということも聞きました。このような状況でしたので、その時点ではHyperCardを習得することで満足していました。数ヶ月後、休暇でふるさとのハンガリーへ一時帰国しました。大学の旧友に、ブダペストでばったり会いました。そこで「今は東京にいて、マックを持っているのか、それでは僕の仕事場にきてごらん、面白いものを見せてあげるから」と誘われ、その友人のオフィスに行きました。これがグラフィソフトオフィスを訪れた最初の機会となりました。当時は狭い地下室に15人のスタッフが重なるようにして熱心に仕事をしていました。

そこで見たものは、非常に驚かされるものでした。それはArchiCAD 3.5で、自分が持っているマシンと同様のコンピューターでリアルな3Dが動いていたのです。私はソフトの体験版を貰って家に帰りました。体験版では保存と印刷の以外、全てが商用版と同じ機能でした。このソフトがもらえて嬉しくて仕方がなかったのを今でも覚えています。

日本に戻ってから、すぐにこのソフトをインストールしました。基本的な機能はすぐに覚えましたが、やはり保存と印刷ができないのでなかなか利用できないと感じました。無償のソフトなので文句は言えませんが、学校の課題をCADで作成することをどうしてもあきらめられなかったのです。

そこで、ArchiCADで入力した簡単なマスモデルから透視図を作成し、それを手書きの3D図面の下図として利用することを考えました。「でもどうすれば画像を紙に写せるのか?」当時はまだプリントスクリーン機能はありませんでしたので、「アナログ」な方法で行うしかありませんでした。トレーシングペーパーを取り出し、SE30の小さなスクリーンの上に両面テープで貼付けたのです。そして、スクリーン上の画像を手描きで写し取りました。この方法で透視図の輪郭を写し取ってから詳細を手で描き込むことは難しくはありませんでした。大学の先生にはその結果を非常に気に入っていただきました。こうして、システムの限界を乗り超え、CADを使用したプロジェクトを完成させたと自分でも満足しました。

さて、この話の教訓は「トレーシングペーパーを使いましょう」ということではなく、限られた状況の中でも有効な手段を見つけられる、ということです。ArchiCAD(または他のソフト)を使う上で「正しい方法」は一つだけではありません。保守的になる必要はないのです。ArchiCADは、良い建築物を創るという一つの目的を達成するための道具に過ぎないのですから。

*当時は短期間でしたがAutoCADMac版もありました。

2009年8月11日火曜日

最善な「もの」を利用した仕事

ブダペストに住んでいた頃、我が家で何か修理が必要だった際に、「蛇口の修理も、屋根修理も、庭の手入れもなんでもできる」などと、あたかも家の全てのことを知っているかのように自慢げに話をする職人気質の人を、あまりいい職人とは思いませんでした。このような気質の人は、たいていの場合、途中で「このくらいで十分だろう。」と満足してしまいます。本来であれば、「このくらいで十分」と言うことではなく、「できた」または、「できていない」の判断をするべきなのです。 この結果、自分たちの専門分野外である仕事を頼まれた場合、それを丁重に断り、本当にそれについて知識のある専門家を紹介する職人の方が、よっぽど頼りになる真の職人だと気づきました。

ソフトウェアに関しても私は同じように感じています。よくお客様から構造または設備系アプリケーションのソリューションがあるのか質問されます。こんな時、「私どものBIMモデルで使える構造/設備系ソフトをお試しください。」と答えるのが一番簡単であり、聞こえが良く、またお客様も難しいことを考えずに購入することができます。このようなサービスは数年前に流行しましたが、古くからエンジニアリングソリューションにフォーカスしてきた人たちに決して良いことではありません。その上、設計者が使い慣れているソフトウェアを、新しくこの分野へ進出してきたソフトウェアへ強制的に変えさせる理由はありません。これらを理解した上でグラフィソフトでは、我々が一番良く理解している「建築デザイン」の分野に専念することを決断し、 BIM環境の中で、設計者とエンジニアがお互いにシームレスに連携することを可能にさせる最良な作業として、強力なデータ連携による設計業務のためのワークフローを提供することに力を入れてきました。



例えばTEKLAの場合ですが、彼らは構造のモデルや詳細設計ソフトウェアを40年以上開発しており、明らかにこの分野において世界一と言って過言ではないでしょう。 私たちはお客様に取って一番良いアプリケーションをどの分野においても提供できるよう、またそれらがBIMの領域でIFCまたは他の方法でシームレスに連携できるよう努力してきました。その結果、日本を含む全世界でTEKLAと協業することに至りました。これに関してお客様からは非常にポジティブな反響をいただいております。

2009年8月6日木曜日

ご挨拶:10年後・・・

私が日本を離れてから10年が経とうしています。

 当時、グラフィソフトジャパン社の社長として躍動的で成功した4年間を過ごした後、母国であるハンガリーに戻り、グラフィソフト本社の副社長としてプロダクトマネジメントの責任者となりました。その後、国際的に著名な建築家Erick van Egeraat氏のハンガリー支社でマネージングディレンクターとして3年間勤務しました。バルコニー社長に依頼され、すでに11年以上を過ごした私の愛する国に戻り、1994年に始めた仕事をまた再開できる事を光栄に思います。いわば「利用する立場」で時間を過ごす事で、建築家の視点からの世界観を再度学ぶ事ができ、今回の仕事においてこの経験を生かす事ができると期待しています。

 日本に戻り、私が日本を離れた頃から様々な面でこの国が変化した事に驚きました。新しい建物が軒並み建ち、新しい地下鉄が建設され、最も重要な事として、日本が自信を持つようになり、東京がさらに国際的になりました。同様に、3D市場も成熟し、グラフィソフト社が1980年代にはすでに提案していた「バーチャルビルディング」コンセプトが広く受け入れられています。現在では一般的に「BIM」として知られていますが、重要なことは名称ではなく、このコンセプトが実際に機能すると言う事実であり、この手法により生産的で品質の高い建築物を生み出す建築家が増えているという事です。また、一週間を日本で過ごした中で、弊社のユーザーによる事例に驚かされる事も何度もありました。バーチャルビルディングコンセプトは想像以上に深いところまで実践されているのです。

 また一方、競合製品の成長も、弊社にとって喜ばしいことです。何故なら、BIMの手法が従来の2D CADに代わる、魅力的な手法であることの確かな証拠であるからです。弊社の技術革新への熱意が建築家に伝わり、重要な仕事を行うときの道具として ArchiCADを信頼していただけると確信しております。ここで、長年弊社の製品をご利用いただいている全てのお客様に感謝の意を表し、新しいあるいは比較的最近のお客様を歓迎するとともに、何らかの理由でグラフィソフト社製品から離れてしまった方々にもう一度検討していただきたいと思います。

 特に強調したい事は、グラフィソフト社がよりオープンでストレートな企業であり、お客様や全ての建築家の皆様と一緒になって、製品や業界の将来に対する積極的な議論をすることに意欲的な会社であることを強調してお伝えするとともに、お客様と定期的に意見を共有し、情報提供や実りある意見交換により良い製品作りに反映されればと考えております。

 それでは、共に進んでいきましょう。この秋には素晴らしいことが起こることをお約束いたします。

コバーチ・ベンツェ
代表取締役  
グラフィソフトジャパン株式会社